「ガチャン!ガチャン!」閉店間際、惣菜コーナーに響き渡る値引きシールを打つガンタッカーの乾いた音。その音を合図に、群がってくるお客さんの熱気。冬場の冷蔵ケースでの品出しでは、段ボールの端で指を切っても、冷気で指先の感覚が完全に麻痺しているため、血が滲んでからようやく痛みに気づく――。
はじめまして。スーパー・小売業界で9年以上、レジ打ちから品出し、発注、そして店長業務まで酸いも甘いも噛み分けてきた元スーパー店員です。ネット上には「特売日を狙え」「PB商品を買え」といった薄っぺらい節約術が溢れていますが、現場の最前線で1円、10円の節約に奔走する主婦たちのリアルな姿を見続けてきた私からすれば、「それ、本当の“お得”じゃないですよ」と言いたくなることばかりです。
今回は、カタログスペックやネットの拾い食い情報ではない、私の「目と手と耳」で感じた現場のリアルだけをお伝えします。
私がやらかした、店を潰しかけた大失敗
偉そうなことを言う前に、私が現場で流した冷や汗(という名の一次情報)を一つ告白させてください。
あれは発注担当になりたての冬のこと。特売の「木綿豆腐」を本来30ケース発注するはずが、発注端末(GOT)のゼロを2回多く叩いてしまい、3000ケース発注してしまったのです。
翌朝6時、荷受け場に横付けされた大型トラック。ドライバーのおっちゃんから「店長、今日店潰す気っすか?」と青ざめた顔で呼ばれ、バックルームを埋め尽くす豆腐の山を見た時のあの膝の震えは一生忘れません。文字通り足の踏み場もなく、豆腐の水分でバックルームの湿度が異常に上がり、息苦しさすら感じました。結局、近隣の系列店に泣きつき、店頭では「大豆腐市」と手書きポップを掲げて拡声器で叫びながら売り捌きました。この痛い経験があるからこそ、店の裏側の在庫事情や「本当に売りたい商品」の動きが手取るようにわかるようになったのです。
レジ打ちの職業病。カゴを見ただけで貯金額がわかる
9年もレジを打っていると、レーンに並んでいるお客さんの買い物カゴをチラッと見ただけで、その家庭の「おおよその貯金額」が予想できるようになるという職業病に罹ります。
万年金欠(貯金ができない)人のカゴは、一言で言えば「カオス」です。底の方にポテトチップスが潰れそうに入っており、その上に重い大根。そして、割引シールが貼られた惣菜や、レジ横でつい取ってしまったであろう新商品のグミが無造作に放り込まれています。お会計の途中で「あ、これ思ったより高いんでやめます」と言うのも大抵この層です。
一方、しっかり貯金ができている主婦(資産1000万クラス)のカゴは、まさに「完璧なテトリス」。底には牛乳や根菜、その上に肉や魚のパックが平らに置かれ、一番上に葉物野菜。カゴの中に「ついで買い」のノイズが一切ありません。色彩も、野菜の緑、肉の赤、豆腐の白と非常に鮮やかです。金欠の人のカゴが、スナック菓子や加工食品で「茶色とカラフルなパッケージばかり」なのとは対照的です。
貯金ができる人は、「安いから買う」のではなく「今日必要なものが安いから買う」という鉄の意志を持っています。特売トラップには決して引っかからないのです。
店員しか知らない、本当にお得なスーパーの歩き方
ここで、現場にいたからこそわかる「スーパーの裏側」をいくつか暴露します。
実は「火曜日」が一番鮮度がいい理由
地域にもよりますが、中央卸売市場は水曜日が休市になることが多いです。そのため、スーパーは月・火で仕入れた生鮮食品を売り切るため、「火曜市」などの特売を仕掛けます。つまり、火曜日の朝イチに並ぶ野菜や魚は、一番ロットが新しく、かつ店側が気合いを入れて大量に仕入れた「鮮度抜群の品」なのです。水曜・木曜は、火曜の残りや日持ちするものが並びがちになります。
店長が本当に売りたい商品は「目線」ではなく「足元」にある
スーパーの陳列棚で一番目立つ高さ(ゴールデンライン)には、実は店長が売りたい商品はあまり置けません。なぜなら、大手メーカーからの協賛金や「棚割り」という大人の事情で、置く商品がガチガチに指定されているからです。
では、店長が「粗利が高いから売りたい(=店独自で安く仕入れたお得品)」や「過剰在庫だから早く捌きたい(=私の豆腐のような品)」はどこに行くのか? それは、通路の中央にある足元の投げ込みワイヤーワゴンや、棚の最下段です。「こんな目立たない所に?」と思うような足元にこそ、ネットには載らない底値の掘り出し物が眠っています。
【現場目線】PB商品とメーカー品のリアルな比較表
最後に、よく雑誌などで「プライベートブランド(PB)はお得か?」という特集が組まれますが、現場の従業員目線(品出し・バイト・クレームなど)で評価した比較表を公開します。これを知ると、なぜスーパーがPBを推すのかがよくわかります。
| 評価軸 | PB商品(自社ブランド) | NB商品(有名メーカー品) |
|---|---|---|
| 価格と利益率 | 客から見れば安い。しかし店の利益率は驚異的に高い。売れば売るほど店長がニヤニヤする。 | 客から見れば高い。しかし仕入れ値も高いため、店の利益はスズメの涙。特売にすると赤字スレスレ。 |
| 品出しのしやすさ (バイト目線) |
神レベル。段ボールにミシン目が入っており、箱のままパカッと割って棚に押し込むだけ(SRP陳列)。数秒で終わる。 | 発狂レベル。段ボールを開け、商品を1個ずつ綺麗に前を向けて並べる必要がある。冬場の飲料補充は地獄。 |
| 客からのクレーム頻度 | 意外と多い。「前の製造工場の方が美味しかった」「パッケージが開けにくい」など、常連客からの謎の厳しい監査が入る。店員が直接対応させられる。 | ほぼゼロ。何かあってもお客さんはスーパーではなく、直接メーカーのお客様相談室に電話するため、現場は無傷。 |
いかがでしょうか。「1円でも安く」と自転車を走らせる主婦の皆様の背中をレジから見守り続け、私は学びました。本当の節約とは、単なる価格の比較ではなく、「店の売りたい思惑(トラップ)を見抜き、自分に必要なものだけをブレずにカゴに入れる力」なのだと。
次スーパーに行く時は、ぜひ足元のワゴンをチェックし、ご自身の買い物カゴの中身を客観的に見つめ直してみてください。きっと、スーパーの見え方がガラッと変わるはずです。


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